イジワル同居人は御曹司!?
漁師になろうが、しゃちょーになろうが、もう奏さんとこうやって会うこともなくなる。

その事実は変わらない。

「寂しく…なります。これは個人的な都合ですけど」

そこまで言うと、目頭がじわじわと熱くなる。

奏さんが見ててくれているから頑張れた。

無理だと思う事も挑戦することが出来た。

でもそれを口にすれば「これだから女は…」って思われるに違いない。

私は要らん事を言わないようにグッと唇を横に結んだ。

奏さんは私の腕を掴み「帰るぞ、酔っ払い」と言って、手を上げてタクシーを拾おうとする。

「ヤダ!私はまだ帰りませんよ!」

溢れて来た涙を拭いながら、私は腕を振り払おうとジタバタする。

こんなショックな事があった日にあの寒々しい部屋に帰ったら、それこそ再起不能になって会社に行けなくなる。

「今晩は飲み明かすんだからぁ!」

これからゆうぽんと小泉氏を追いかけよう。まだそんな遠くには行っていないはず。

「飲みたいなら、俺が付き合うよ。一晩中」

「ふぇ?」私は涙でぐちゃぐちゃの顔で奏さんを見上げる。

「一緒に帰ろう」

奏さんの茶色い瞳と視線がぶつかった。

「紗英がいないあの家は寂しい」

まさかの台詞に私がカチリと固まっていると、一台のタクシーが私達の前に停まった。
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