イジワル同居人は御曹司!?
喉の奥が引き攣って声が出ない。

足はもつれて頭はパニック状態だ。

ただただ商店街の灯りを目指しで必死で走る。

再び駅に着いた時はホッとして涙が零れそうだった。

後ろを振り返ると痴漢が追いかけて来ている気配はなかった。

どうしよう…怖くて家まで帰れない。

全身がガクガクと震えて、心臓の鼓動も一向に静まらない。

とりあえず警察署に行こうか。

でも帰ったらまた一人だ。

家の中まで警察に付き添ってもらう訳にはいかない。

どうしよう…

暫く逡巡した後に、私は震える指先でスマホの画面をタップする。

呼出し音が数回なると『はい』と無愛想な声が聞こえた。

「ふ、藤田ですー、こんばんはー」

勤めて明るくふるまってみるが、電話の向こうは無言だ。

「あ…あの、今どこですか?」私は恐る恐る尋ねる。

『会社だけど。何?』

「な、何時くらいに帰ってきますか?」

『…あと一時間くらいしたら終わると思うけど』

何故そんな事を聞かれるのかと奏さんは訝っているようだ。

「じゃ、じゃあ!一緒に帰りませんか!私奏さんの会社の近くにいるんです。超!たまたま!超偶然!」

ま、嘘だけど。

『一人で帰る』

それだけ言いうと電話はプツりと切れた。

やっぱり…

私はガックリ肩を落とす。

いきなり一緒に帰ろうなんて不審に思うに違いない。
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