キラキラ想い出マーブルチョコレート


今もキラキラと眩しい、幼い日の想い出の中に住む健ちゃん。
今と向き合って欲しいと恭子が紹介してくれた近藤さんを見ていると、何故か余計に健ちゃんのことを思い出してしまう。

健ちゃんの事は、マーブルチョコレートやサラサラの茶色の髪の毛。
それから、穏やかな表情や、時々弾けたように笑う声を憶えているだけだった。
健ちゃんの苗字も、健ちゃんのちゃんとした名前も憶えていない。
健一なのか健太なのか。
はたまた、もっと別の名前なのか。

だけど、あの日。
マーブルチョコレートをくれたあの日のことだけは、はっきりと憶えているんだ。
あの日、健ちゃんは私に言った。

「世界で一番、紗南ちゃんが好き」だと。

そう言ってから、キッチンに居た私のママの目を盗んでホッペにキスをしてくれた。
親の目を盗んでキスなんて、小学生のくせにませていると今では思うけれど。
あの時の私は、本当に嬉しくて健ちゃんにぎゅっとしがみついたのを憶えている。
そんな私を見て、ママが笑っていたっけ。

だけど、健ちゃんは中学に上がる前に引っ越してしまったんだよね。
今頃どうしているのかな?
私の事なんて、忘れちゃってると思うけど。

コンビニで恭子が言った、今と向き合ってみたら? という言葉を反芻する。
今日は、健ちゃんには想い出の中にいてもらい、今目の前にいる近藤さんと向き合ってみようかな。
いつまでも幼い頃の想い出に浸ってばかりもいられないのは、私だって解っているんだ。



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