きみの愛なら疑わない
「友達からそれを聞いた時はショックだったな……あの仕事ではストイックな浅野さんが」
潮見がショックを受ける以上に私には重たい現実だ。
「噂ばっかりでどれも全部信憑性がないよ……」
「まあそうなんだよね」
潮見は困った顔をして笑う。
私の知る過去の浅野さんはそんな人ではなかった。入社して3年間近くで見てきたけれど女癖が悪い印象はない。でも私は浅野さんの全てを知っているわけじゃない。
「本当のことは分かんないけどね。飲み会も女の子と距離おくか、すぐに帰っちゃうし。もったいないよね。他の部署では人気あるのに」
社内で隠れファンが居るのも知っている。浅野さんの評判をよく知らない人にはクールな人に見えるのかもしれない。
「男性が好きなのか、遊び人なのか、どっちもただの噂なのか」
「全部噂ってところがなにも信じられない」
潮見に言い返す言葉は自分に言い聞かせる言葉だ。
「美紗ちゃんもがんばってね」
「何が?」
「浅野さんを落とすの」
「だから違うって」
「惚れさせたら真面目に付き合ってくれるかもね」
潮見は私が浅野さんを好きだと完全に決めつけているようだ。
もしも浅野さんが噂通り女性と適当な付き合いをする人なら心を入れ替えてもらいたい。だって本当の浅野さんは誠実な人だから。女性関係が乱れているのはきっとトラウマのせいなんだから。
私が入社してしばらくたった頃、新商品のメニュー表の印刷を発注する際に間違った数字のデータを業者に送ってしまったことがあった。
間違った理由は単純に数字の見間違いだ。店舗管理課の字の汚い社員が急いで書いた1や2や7を間違って解釈しそのまま入力した。書いた本人に確認しないで送ってしまったのだ。
印刷発注後、明らかにおかしい数字に印刷業者から確認の電話が来た。そこでミスが分かって混乱はしなかったものの、私は浅野さんに怒られた。自社のメニューの価格を間違っているのではと印刷業者に気づいてもらうなんて恥ずかしいことだと。