きみの愛なら疑わない

私自身も深く反省した。もう新人だからと許される段階ではない頃だ。

入社してから初めて仕事を任されるようになって自分の力で頑張ろうって焦っていた。それが悪い結果になって情けなかった。字が汚くて読めなかったとの言い訳に浅野さんは私が怯えるほど冷たい顔をした。

「管理部門としての自覚が足りない。このミスが店舗やお客様に迷惑をかけるところだった」

冷たい声で、冷たい目をして浅野さんは私を叱った。

「君の判断で大事になるかもしれなかった」

その言葉に私は心臓がギュッと締め付けられたような感覚に陥った。
私の言葉が、私の行動が、人の人生を変えてしまうことがある。それは痛いほど分かっていたのに、あの頃の私には社会人としての自覚も人としての常識も考えが至らないことばかりだった。

浅野さんは私が過去を知っていることに気づいていない。それでも過去の罪も含めて責められているように感じた。私は浅野さんに責められて当然の人間だから。

当時の課長にもお叱りを頂いた。すると「申し訳ありません」と浅野さんが一緒に頭を下げてくれた。増々私は自分を責めた。

ミスを引きずってロビーで落ち着くまでぼーっとしていた私に浅野さんは缶コーヒーを差し入れてくれた。

「もしブラックが好きだったらごめんね。勝手に選んじゃった」

差し入れの缶コーヒーには砂糖とミルクが入っている。私はブラックでは飲めないからこれが嬉しかった。

「足立さんの良いところは冷静に物事を考えられるところなんだよ。だから落ち着いて向き合えば大丈夫」

そう言った顔は優しかった。滅多に見ることができない貴重な笑顔。その顔を見た瞬間、私は確信した。今までの私の行動理由と浅野さんの結婚を必死に壊そうとした気持ちが何だったのか。

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