きみの愛なら疑わない

「浅野さんは昼間も仮眠室を使っているのでしょうか?」

「え?」

社内には簡易ベッドが置かれた四畳ほどの部屋を仮眠室として利用できる。隣り合わせで2部屋あり、申請すれば社員が誰でも使うことができた。

「浅野さんから仮眠室の夜間使用申請が出ているのですが、夜だけじゃなくて今も誰かが使っているみたいなんです。さっき私が前を通ったら使用中の札が出ていたので、浅野さんかなと思いまして……」

浅野さんが仮眠室を使っていることすら知らなかった。
仮眠室は基本的には夜間作業をする社員しか使わない。いくら店舗を複数担当してるからって家に帰れないくらい忙しいのだろうか。

「では私の方でも確認して総務部にご連絡しますね。忙しくて疲れているのかもしれませんし……」

そういえば顔色も悪かった気がする。体調が悪くなって休んでいるのかもしれない。

「お願いします。使用申請書も出し直していただけると助かります」

「伝えておきますね」

「ついでですみませんが、就業時間外申請書と領収書もまだいただいてなくて……」

今月分の申請書の提出期限はとっくに過ぎている。溜めているなんて浅野さんにしては珍しいことだ。

「すみません……私から言っておきますので……」

「よろしくお願いします。退職までには処理したいので」

「退職? 北川さん退職するんですか?」

「いいえ、私ではなく浅野さんが退職願いを提出したようです。先程総務部長に回ってきました」

「え!?」

思わず大きな声を出して驚いてしまった。浅野さんが退職するなんて聞いていなかったから。

「えっと……レストラン事業部では皆さんご存じなのかと思っていたので……すみません突然……」

電話の向こうで北川さんが謝る。

< 127 / 164 >

この作品をシェア

pagetop