きみの愛なら疑わない

「近所に姉の姿を見られるのも体裁が悪いので親は一生人目につくところには出したくないでしょうね」

匠と逃げて窮屈な生活から抜け出したのに、結局は以前よりも自由を奪われている。

「姉が式場から逃げたとき父親が追いかけたのを覚えてますか?」

私は小さく頷く。あの時我に返った何人かが美麗さんを追いかけた。

「すぐに二人に追いついたんです。でもだめでした。二人を説得しても式場には戻らないって」

あれ以来美麗さんの姿を見ることはなかった。一度決めたことはやり通す頑固なところがある美麗さんは浅野さんの元には戻らない。そこまで私は予想して匠を唆した。

「匠は贅沢に慣れた姉を満足させる生活は当時はできなくて、姉は1ヶ月で親に金を無心しに来たそうです。バイトなんてしたことがない姉は自分が働こうなんて絶対に思いませんからね。お腹に子供もいましたし」

簡単に想像できた。働く気がない美麗さんと売れない匠との生活を。

「親の金のお陰でバンドが売れなくてもそれなりの生活はできていたようです」

「匠はヒモだったんだ?」

「そういうことです。姉と駆け落ちしたくせに未だに籍も入れないで、城藤の金を都合よく利用して」

匠だって美麗さんの財力に惹かれたとこがあったと思う。

「親は姉が妊娠してることも当時は知ってて、その子も産まれて間もなく亡くなったことも知っていました。何も知らなかったのは俺だけでした」

優磨くんは悲しそうに語った。

「きっと優磨くんに知られると浅野さんにも伝わると思ったから内緒にしたのかな……」

私のこの言葉が全く慰めにならないことは分かっている。でも妊娠を当時の浅野さんが知っていたらもっと傷は深かっただろう。

< 138 / 164 >

この作品をシェア

pagetop