きみの愛なら疑わない
「あ、えっと……たまにはゆっくり本でも読もうと思って」
浅野さんの真っ直ぐな目を向けられ、私の嘘がバレているのではと居心地が悪くなる。
「こちらにどうぞ」
店長が手を伸ばして案内した席はあいているカウンター席。それは浅野さんの隣だ。
「あ、あの……」
「どうぞ」
戸惑う私に浅野さんはイスを少し引いて「僕の隣でよければ」と無表情で勧めてくれた。女性と距離を置かなくても大丈夫なのだろうか。
戸惑ったけれど浅野さんに促されては隣に座らなければ失礼だろう。私はドキドキしながら浅野さんの隣に座った。
「足立さんは何を飲みますか?」
「じゃあブレンドで……」
「かしこまりました」
店長の指示で後ろに控えたアルバイトの女の子がブレンドコーヒーを淹れてくれた。
「今日は本社の方が二人も来てくださるなんてプレッシャーです」
店長は少しも困ってなさそうな顔で笑う。
「ただの偶然ですよ。ここは売り上げが好調だし、プレッシャーをかける理由がないですから」
浅野さんは淡々と言葉を発している。彼の口から出る言葉には女性に対してほとんど感情がこもっていない。
「店長、シフトの件で相談したいんですが……」
バックヤードからアルバイトの子が店長に声をかけてきた。
「あー、あとでいいかな? 今はちょっと……」
「僕たちは大丈夫ですよ」
「そうです。今日はお客として来ただけなので」
私と浅野さんは揃って店長にバックヤードに行くよう促した。本当は浅野さんと二人にしてほしくはないのだけれど、業務を邪魔してはいけない。
「僕は優磨に会いに来たのでお構い無く」
「そうですね……じゃあすみませんが」
店長はバックヤードに入っていったのと同時に「あ、慶太さん、もしかして……」と突然後ろから声がして振り向くと、先ほど外でウェルカムボードを見ていたときに話しかけてきたアルバイトの男の子が箒と塵取りを持ったまま立っていた。