きみの愛なら疑わない
優磨くんはそんな浅野さんに困ったように笑い返すけれどそれ以上何も言わない。
私は不穏な空気に居心地が悪くなった。優磨くんは今までの会話の中で浅野さんを怒らせることを言ったようには聞こえなかったのに。
「えっと、足立さん、でしたよね?」
「あ、はい……」
「ゆっくりしていってください。小説も雑誌も、少ないですがマンガもありますから」
優磨くんは私がびっくりして固まっているのに気づいたようで、気遣って声をかけてくれた。
「ありがとうございます……」
私はまだ顔がひきつっているけれど、優磨くんはもうニコニコと人懐っこい笑顔に戻っている。
ここには読書が目的で来たわけではないけれど、不自然じゃないように近くのラックに置いてあった雑誌をよく見ないで手に取った。
横目でそっと浅野さんを見ると、こちらもいつもの態度に戻ってコーヒーカップに口をつけている。といっても浅野さんはいつも無表情だから感情が読み取りにくい。今何を思っているのか私には判断ができない。
「あ、そういえば慶太さんが読みたがってた新刊が入荷しましたよ」
優磨くんは先ほどの気まずいやり取りを忘れてしまったかのように、カウンターから出て本棚から一冊の文庫本を取って浅野さんに渡した。
「ああ、ありがとう」
浅野さんは無表情のまま本を開いて読み始め、優磨くんは再びカウンターの中に入って仕事を始めた。
私は雑誌を適当にめくりながら二人の自然なやり取りに呆気にとられていた。
浅野さんは多分もう怒っていないし、優磨くんは怒られても気にしていない。本当に長い付き合いだということを感じることができる。
浅野さんは男性が好きっていう噂はやっぱりデマで、でももしかしたら優磨くんの方が浅野さんを……なんてね。優磨くんが浅野さんを気にかけることが少し引っ掛かる。