きみの愛なら疑わない

潮見は同じテーブルの女の子と話し始め、熊田さんは変わらず私に馴れ馴れしく話しかけているけれど、私の方は適当に聞き流し浅野さんを見ていた。私が見ていることに気づかれないよう浅野さんの手元を見て、お酒を注いだり取り分けた料理を渡すときに顔をさり気無く見た。
浅野さんは相変わらず目を見ないでお皿を受け取り、誰とも話さずひたすら食べていた。

この人、綺麗に食べるんだな。

長くて細い指が箸を絡め、手を添えて料理を口に運ぶ仕草に色気を感じる。暗めの照明が当たり、メガネの奥の長いまつ毛が目の下に影を落として瞬きと同時に揺れた。
気づかれないようにしていたつもりが、いつの間にか浅野さんから目が離せないでいる。

「浅野さん、それ作ったの俺なんです!」

私の夢見心地をぶち壊したのは熊田さんの声だった。

「へえ、熊田くんが。おいしいよ」

「ありがとうございます!」

ゲラゲラと下品に笑う熊田さんは上品に食事をする浅野さんと比べて更に気持ち悪く感じた。

「ええ!? 最低!」

突然潮見が怒って叫んだ。

「びっくりした……どうしたの?」

私は呆れて潮見を見た。

「ごめんー、だって今江ちゃんが彼氏と別れた理由が酷くて」

「もう言わないでください……」

今江さんは困ったように笑う。

「え? え? 何で別れちゃったの?」

熊田さんが今江さんの話に食いついた。

「浮気されたんです。しかも三股で」

「うわー……それは最低だね」

私も思わず呟いた。

「ね、最低でしょ?」

潮見が自分のことのように怒っている。

「もう誰が本命だったかも分からなくて……最後は泥沼でした」

辛い話題とは反対に今江さんは悲しんではいないようだ。

「前から浮気を疑ってはいたんです。だから別れてよかったです」

心から別れてよかったと思っているのか、今江さんの顔は晴れやかだ。

< 27 / 164 >

この作品をシェア

pagetop