きみの愛なら疑わない

「熊田さんの言うとおりです」

「俺?」

「恋人がいるのに浮気をする人は誰のことも大事にできないのかもしれません」

私なら恋人以外に浮ついたりしない。

「大事な人には私だけを好きでいてほしい」

二股も三股も、一人に決められないなら全員と別れてあげた方が救われるかもしれなかった。

「私だってその人の過去もこの先の人生も家族も友達も、全部守りたいから」

大切にしようって決めた人に裏切られて消えられたら、どれだけ絶望的だっただろう。

「私なら絶対に浮気なんてしない」

裏切ったりしない。あなただけを好きでいる。

「足立さんかっこいい!」

熊田さんの声に自分が恥ずかしいことを言ったと更に顔が赤くなる。

「足立さん本当に浮気された経験ないの?」

「ないです! 本当に!」

私を見てにやつく熊田さんに慌てて否定する。

「美紗ちゃんてとっても一途なんですよ」

潮見が浅野さんに向かって話しかけた。

「潮見やめてよ……」

浅野さんの反応が見られなくて下を向いた。私が一途と言われたことに対して返答はないけれど、浅野さんが私を見ていることは分かる。前から視線を感じるから。

「ほんと、足立さんって一途だね」

熊田さんが私の顔を覗き込んだ。ニヤニヤと下品な顔をして。

「可愛いなあ」

私にしか聞こえない小さな声で囁いた。あまりの気持ち悪さに酔っているのとは違う理由で吐き気がした。

なんとか吐かずに耐えてお開きになった。
店を出て二次会に行く人は繁華街を更に奥に歩いていく。

「あれ? 浅野さん帰るんですか?」

駅に向かって歩き出した浅野さんの背中に潮見が声をかけた。

「明日も出勤だから」

振り返った浅野さんは『帰るのは当たり前だ』という顔をしている。やっぱりこの人は二次会には参加しない。社内の人と最低限の付き合いだけで、深く関わることを極力避ける。

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