きみの愛なら疑わない
「じゃあ」
「お疲れ様です……」
私からどんどん離れていく背中を見るのが苦しい。帰ってほしくない。でも近づいて拒絶されるのが怖い。
「美紗ちゃん、行って」
「え?」
横にいた潮見が私の背中を軽く押した。
「浅野さんと駅まで帰りな。そんでうまいことホテルにでも家にでも行っちゃいな!」
「は!?」
潮見はとんでもないことを口にした。
「浅野さんを忘年会に連れてくるのも大変だったんだよ! 美紗ちゃんのために頑張って誘ったんだから!」
潮見の様子から浅野さんを連れてくるのに必死になってくれたのが分かった。
「一夜だけでもいいから既成事実を作って!」
更に背中を押されて一歩前に足が出た。
「頑張って!」
そこまで応援されては浅野さんを追うしかない。
「うん……やってみる……」
潮見に手を振って早足で浅野さんを追いかけた。
「浅野さん!」
あと数メートルに近づいた浅野さんの背中に向かって声をかけた。それに気づいた浅野さんが振り返って足を止め私を見た。
「あのっ……」
浅野さんに近づけると思った瞬間「足立さん」と声をかけられ、突然手を捕まれて後ろに引っ張られた。
「やっ!」
バランスを崩して転びそうになったとき、誰かの腕に支えられた。
「あ、ごめーん、強く引っ張りすぎたよ」
そう言ってゲラゲラと笑うのは熊田さんだった。
「どこ行くの? 俺ともう一度飲みに行こうよ」
私の腕を掴んだまま放す気配のない目の前の男は気持ち悪いほどの笑顔だ。
「いや、帰りますから」
「なら送ってくよ」
「一人で帰れます」
腕を振りほどこうとしても熊田さんの手は離れる気配がない。
「危ないよ、女の子一人じゃ」
あなたと帰る方がよっぽど危険ですと言いたい。でも刺激したらこの男はもっと危なくなるかもしれない。
密着した体を離そうと腕で押しても熊田さんは私から離れない。だんだん掴まれた手が痛くなってきた。
助けを求めて浅野さんを見ると、彼は私たちを見て立ち止まったまま黙っている。