きみの愛なら疑わない
「ねえ、行こうよ」
手を引っ張られて駅から離れようとする。私は足に力を入れて抵抗した。
嫌だ! 熊田さんとなんて!
「怖くないから」
「嫌です!」
「熊田くん、手を放すんだ」
割って入った声に熊田さんの手の力が弱まった。浅野さんがいつの間にか近づいて私たちの目の前に立っていた。
「浅野さん…?」
熊田さんは明らかに動揺した。
「足立さんを放しな」
「いや、あの……」
まさか浅野さんに止められるとは思っていなかったようだ。
「熊田くん酔ってるみたいだし、足立さんは僕と駅まで帰るから。君はまだ飲み足りないならみんなのところに行きな」
「でも……」
「二次会はあっちだよ」
浅野さんは顎を振って繁華街を指した。その動作から少しだけ怒りを感じた。そう思ったのは熊田さんも同じなのか、先輩の前では強く出られないのか、掴んでいた私の手を解放した。
「お、お疲れ様でした……」
「うん、お疲れ」
その言葉を合図に熊田さんは慌てて繁華街を走っていった。呆気にとられた私はひたすら浅野さんを見ていた。
「帰ろうか。駅までなら送ってくよ」
「はい……」
一歩先に歩き出した浅野さんの後ろをついていく。
「あの……ありがとうございました。助けていただいて」
「別に。足立さん嫌がってたのに強引に連れてこうとする熊田くんに呆れたから」
浅野さんは抑揚のない声で振り返ることなく答えた。
「嬉しかったです……」
思わず本音が出た。だって浅野さんに助けてもらって嬉しくないわけがない。
「もし熊田くんに簡単についてくような軽い子だったら助けなかったよ」
「そう、ですか……」