きみの愛なら疑わない
浅野さんは左手を頬に当て、右手でメガネのずれを直した。指の隙間から見える頬は赤くなっていて、私も今は怒りで顔が赤くなっているだろう。
「セフレになりたいんじゃない……」
小さく呟いて泣かないように体に力を入れた。
そうじゃないんだ。体だけ繋がりたいんじゃない。
周りに人がいれば何事かと不審に思われたかもしれない。でも今は偶然にもこの周辺には私と浅野さんしかいなかった。
「お待たせしましたー」
優磨くんの元気な声で我に返ると棚の向こうから優磨くんが不思議そうな顔をして顔を覗かせた。
「どうかしました?」
「いや、なんでもないよ」
浅野さんは顔に当てた手を下ろすと「行こうか」と優磨くんへ声をかけた。
歩き出した二人の後ろから私も何もなかったような顔をしてついていく。
優磨くんが出口に向かって棚の角を曲がった時、浅野さんは背後にいる私に向かって少しだけ顔を動かした。
「それでも僕を好きでい続けられる?」
そう問いかけた。優磨くんには聞こえない小さな声で。
私の答えは聞かずに先に角を曲がってしまった。曲がる直前にまたしても微笑んだ気がした。それは今までの笑いと種類の違う、意地悪で冷たい顔だった。
体の関係から攻めていくのもありだと思っていた。でもそれはこの人の思う壺なのだ。そんな小細工はもう通じない。これが全部作戦なら浅野さんはかなりの強敵。流石の私も降参する日は近いかもしれない。
本屋を出る直前の店内のBGMは今一番聞きたくないKILIN-ERRORの新曲だった。