GREEN DAYS~緑の日々~
夏穂は祭りの夜の屋台へと続く長い道を歩いていた。国人は見つからない。洸が国人を探してくれるとは言っていたが。いつもの様に口を尖らせながら歩いていると、瑞恵と一緒に歩いている国人を見つけた。楽しそうに笑い合って。夏穂は咄嗟に身を隠し、別の道を歩き始めた。途端、別の友人と歩いている優美に会う。優美は一度目を合わすと、やがてそっと逸らし、夏穂とは別の方向に歩いて行った。

 屋台の裏の人気の無い所にそっと出てみる。団扇を揺らして。

「ドンドン、ピー、ピー、ドンドン、…ヒャラヒャラ」

祭囃子の音を口で真似る。朝顔模様の団扇の上に涙がぽつんと落ちた。



 洸は祭りの人込みの中にいた。前に行く人、後ろに行く人。洸はふと足を止めた。周りには色々とりどりのお面。プラスティックの鮮やかな黄色とピンクの風車。飴売りの声。金魚すくいをしている子供達の歓声。切り立ての西瓜。祭りの笑顔。

 洸はふと立ち止まった。どうしたんだろう。どうしてしまったんだろう。今まで、ほんの今まで、平静だったのに。平静のまま人を探していたのに。なぜだろう。この祭りの雰囲気。洸は辺りを見回した。人々は生きている。活気付いている。笑い合っている。そのざわめきが自分を駆り立てる。洸は涙を落とした。立ったまま。白いシャツを着て微動だにせず。光の風花がざあーっと吹き抜ける。

 俺は、俺は、自分で自分のこの世で一番大切な物を剥奪してしまったんだ。もっともっと、この世のありとあらゆる美しい物を見たかった。夏穂が国人と一緒にいる所や、自分の演奏に真剣に耳を傾けてくれている人間達の顔。ああいった物を、もっともっとたくさん見たかった。そして何かに感動する心を思い起こした時の快感をもっと味わいたかった。いつか夏穂がくれたアルルカン。心の中のアルルカン。俺は何を失い、そして何を手に入れたのだろう。両の拳を固く握り締めながら俯く。いや、いや、もうすべて過去の事だ。誰も責めずにいてくれればそれでいい。自分を奪ったのが自分で良かった。他人ではなく…。
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