GREEN DAYS~緑の日々~
 洸は帰り道、道の途中で国人を見つけた。河原で野球している子供達を見つめては息をついている。国人は明らかに何らかの責任を感じている。項垂れて。

「誰のせいでも、ない」

「だって」

「あの時、君がいてもいなくてもこういう事になってた。運命みたいなもんかな」

「先生」

「ん?」

「人の運命って変えられないのかな」

「どうだろうな」

「俺、普通の家に育って来て、何の揉め事もなく育って来て、それが当たり前だと思って今まで生きて来た。だけど夏穂の家とか見てたら…。先生、悲しいまま生きてる人っ

て、生きてる意味あんのかな。悲しいまま生きていかなきゃならないのって、何か意味があんのかな」

 悲しいまま生きていかなければならないのは何故か。そしてその事に何の意味があるのか。今、確かにこの十代の少年は自分に尋ねた。今確かに。それを成し得なかった自分が、何をどう答えればいいのだろう。答えてやればいいのだろう。指図めいた事なんて出来ない。誰に対しても。

「もし自分が幸せであっても不幸であっても、価値観は人それぞれ違う。本人にとっても周りから見てる人にとっても。俺達が普段気にならない様な小さな幸せでも、あいつにとってみたら最大の喜びかも知れない。あいつの為にどれだけ泣けるかじゃなく、あいつの為に、あいつが喜ぶ為に、どれだけ何か頑張れるかを考えたいね」

 国人は洸の横顔を見つめた。洸は担任でもちゃんとした教師でもない。それなのにどうしてだろう。なぜだろう。洸にずっと側にいて欲しい。時々こうして話を聞いて欲しい。洸は誰にも従わないし、誰も従わせない。いつも皆で一緒に考えられる様、自然に導いてくれる。子供の立場になって。そんな簡単な事を、夏穂を苦しめている大人達はどうしてわからないんだろう。

「先生」

「ん?」

「大会、見に来てくれますか」

洸は頷いた。

「あいつが君の見舞いにちゃんと行ったらね」

傾く夕日。国人が憂う。

「俺達、」

「え?」

「上手くやって行けるかな」

「どこで」

「どこでも」

「そう意識している内は大丈夫だと思うよ」

 空が段々高くなり始めている。国人は思っていた。例えば、例えばこれから、自分達はどうなって行くんだろう。来年の今頃は、自分も夏穂も洸も、ここにはいない。ここには誰もいなくなってしまう。そう遠くはない未来に足を踏み出す準備をしながら。

 国人はもうすぐ洸がいなくなってしまうんじゃないかという不安を覚え始めていた。
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