GREEN DAYS~緑の日々~
 翌日、退院した夏穂は玲子達と自宅に戻った。左の頬に大きなガーゼ。夏穂は片膝を立てながら、居間でこの夏最後のスイカにかぶりついていた。猛烈な勢い。夏穂の口から手からスイカの赤い汁がそこら中に飛び散っている。

「夏!、汁が垂れてる汁が!」

玲子の怒鳴り声も夏穂には届かない。

「夏!」

瑞恵が居間と続きの台所から声をかける。

「いいじゃないのお母さん、入院中、好きなもの食べられなかったんだから」

「全くもう、お腹壊すわよ」

瑞恵はふと食卓の上に目をやった。見慣れない包み。

「お母さん、これ何?」

「ああそれ?、ポストに入ってたのよ、何かしらね」

瑞恵は何気なく表書きを見た。夏穂様、と鉛筆の小さな文字。差出人は…。

「夏!」

瑞恵は大声を上げた。夏穂はスイカの種を飛ばしながら振り向いた。

「夏、開けてみて早く」

手を拭き、白い包みをそっと開ける。中から木の箱に丁寧に並べられた上等の油絵の絵の具が出て来た。

「あらー」

玲子は感嘆の声を上げた。瑞恵は微笑んだ。夏穂はその箱をじっと見つめた。この包みは、洸の最大級の思いやりだ。この小さな箱には何もかもが詰まっている。夏穂が欲しがっていたもの全てが。包みの裏には洸、と小さくぶっきら棒に書かれている。洸。洸。夏穂はいつまでもその字を見つめていた。
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