GREEN DAYS~緑の日々~
 瑞恵はテーブルの上を真っ白な布巾で拭いていた。玲子は縁側から狭い庭を無言のまま見つめ続けている。

「お母さん」

 玲子は背中で泣いていた。泣き顔を見せずに。瑞恵は顔を背けた。今まで輝明がいた居間を改めて見回す。

 夏穂が生まれたばかりのこの家は幸せに満ち溢れていた。歳の離れた妹。家族は夏穂がそこにいるだけで幸せを痛感していた。だが、夏穂も自分もいつかはこの家を出て行く。輝明も帰らない今、玲子はこの先どうするのだろう。こんな事、今まで誰も教えてはくれなかった。誰も。夏穂はこの家で一番大切な家族だ。すべてを伝えた方がいいだろう。そして教えなければならない。誰の事も恨んじゃいけない、と。いや、いや、夏穂は誰の事も恨まないだろう。誰の事も。夏穂ならきっと。

 瑞恵はそっと玄関に出てみた。輝明の名が刻まれたままの表札。右手でそっとなぞる。瑞恵は唇を噛み締めた。
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