GREEN DAYS~緑の日々~
国人は道の途中で夏穂を待っていた。洸の事を考える。洸はいなくなってしまった。完全に。またどこかで会える、なんて事は永久に無い。洸という人間はそういう人間なのだ。どこを探しても、泣き叫んでも、もう会えないのだ。そういうものなのだ。

 いつか洸にふいに尋ねた事がある。どうして人は悲しいまま生きて行かなければならないのか。そしてその事に何の意味があるのか、と。あんな事を尋ねてしまったなんて。今から考えてみれば…、洸の立場になって考えてみれば…。あの時は夏穂の事で頭が一杯だった。それにまさか洸が、なんて事は夢にも思わなかった。いつか洸は言っていた。今の自分はあの頃の自分が見ていた偶像なのかも知れない、と。偶像。何て悲しい言葉なんだろう。悲しいままいたのは洸だったんだ。ずっと悲しいままで。

 国人は顔を上げた。いつか、洸の様な人間になれるだろうか。道に迷っている子供達がいたら、洸が自分達にしてくれた様に、明るい方向へ導いてやれるだろうか。押し付ける事もなく、さりげなく、正しい方向へ。導いてやれるだろうか。何の仕事に就いていても、何歳になっても。



 自転車のベルの音。夏穂は国人に気が付いた。二人で歩き出す。

「大学、決めたのか」

「そっちは」

「スカウト来てた大学」

「体育大学?」

国人は頷いた。

「お前は」

「美大」

「美大?」

「美大」

「…お前なら受かるよ」

「そうかな」

「うん」

「もう来年から一緒に行けないね」

「どこに」

「お祭り」

国人は鼻を掻いた。

「あの時は、事情知らなかったから」

「で、お姉ちゃん誘ったんだ」

「誘ったって言うか」

「お姉ちゃん、どうしてあんたとお祭りに行ったのかな」

「そりゃ知ってたからだよ」

「何を」

「俺の気持ち、って言うか」

「あんたの気持ち?」

「…いいんだよ。乗れよ」

 夏穂は国人の自転車に飛び乗った。国人は自転車を走らせながら、夏穂に洸の事が好きだったのかどうか聞きかけて止めた。もうそんな事はどうだって構わない。何故なら、自分も洸の事が好きだったからだ。自転車はぐんぐん風を切って走って行った。

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