いつか晴れた日に
「亜紀は本気だったのに」
自分でも驚くぐらいの低い声が出た。

これには池永さんも、ハッとしたように目を見開いたけど、すぐに自己陶酔しきったような気持ちの悪い笑みを浮かべて、わたしを見詰め返した。

「好きだとは一度も言ってないけどね。向こうが勝手に勘違いしたんでしょ。俺の所為じゃない」

悪びれる様子もない池永さんに、怒りを通り越して呆れてしまう。

「ここまで、腐ってる男って……」

無意識に身体が動いていた。
ヒールの踵で、池永さんの足を思い切り踏みつけると、池永さんは「ギャッ」と短い悲鳴を上げて、その場に蹲った。

その隙に、エレベーターの非常停止ボタンを解除して、外に転がるように飛び出した。
箱の中では、池永さんが何か暴言を吐いている。

とにかく、早く逃げなきゃ。
そう思うけれど、ヒールが折れたのか足が縺れて上手く走れずに、エレベーターを出てすぐのところで転倒してしまった。

痛いっ。

右肩を床で打ち付けてしまったみたい。起き上がろうと手をつくと激痛が走った。

「……っ」

涙がじわじわと滲んでくる。どうして、こんな嫌がらせを受けなくちゃいけないんだろう。

心の底から言いようのない怒りが込み上げてくるけれど、今は一秒でも早く、この場から離れたかった。

「逃げるなよ」

「!!」

その声にビクリとして顔を上げると、鬼の形相をした池永さんがわたしを睨みつけていた。

どうしてこんな時に、誰も通りかからないの?

……誰か、助けて。
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