いつか晴れた日に
黒い革張りのメニューを広げながら、「何にする?」とわたしの顔を覗き込む池永さんにドキリとする。

家庭的な雰囲気のバーには、わたし達以外にも数組のカップルと思われる男女が楽しそうに談笑している。

……わたし達も恋人同士に見えたりするのかな?
そんなことを考えて赤面している自分が可笑しくて、顔を伏せて池永さんに気付かれないように小さく笑った。

「安西さん?」

池永さんに名前を呼ばれて顔を上げる。


「えっと。わたしは、モスコミュールにします」

「OK」

バーテンダーに軽く手を上げ合図をすると、池永さんはわたしを見てニコリと笑った。


ピーナッツの殻を踏む音が、雪踏んだ時のそれに似ているから、ここでは殻を床に捨てるのだとか。

ふふふ、なんだか楽しい。ほろ酔いになった頭で、池永さんを見詰める。

顔が赤いのは、お酒の所為だからと言い訳をしようとして言葉を呑み込んだ。
なぜなら、池永さんがわたしの手を握ったからだ。

「……え」

「名前で呼んでいい?」

「…………」

黙っていると、それを肯定と受け取ったのか、池永さんは甘さを含んだ声で優しく囁く。

「怜奈」

「あの……」

「可愛い名前だよね。前から呼んでみたかったんだ」



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