Ri.Night Ⅲ
「やっと来たか」
視界に飛び込んで来たのは膨れっ面の優音。
お箸を持ってあたしを恨めしそうに睨んでいる。
「ご、ごめーん!何着ようか迷ってて」
ご機嫌を取る様に苦笑しながら合掌し、そそくさと席につく。
「貴兄食うぞ!」
いつでもOK、準備万端な優音はまるでお預けを食らっている犬の様に見えて、思わずフフッと笑ってしまった。
「さっきから先に食えって言ってんのに」
そんな優音を呆れ顔で見ている貴兄は肩を竦めながらお茶を注いでいく。
「いただきまーす」
バックバク食べ始めた優音に促され、あたしも手を合わせて食べ始めた。
緊張していた心はいつの間にか優音の言動にほぐされていて、いつも通りに接する事が出来ていた。
このまま行けば二人に不審がられる事はないだろう。
そう思っていたのに。
「──凛音、ごめんな。手伝うって言ってたのに行けなくなって」
突然貴兄の方から引っ越しの話題を振ってきた。
いきなり飛び出した話題に心臓がビクンと大きく跳ね上がり、頬が引き攣る。
まさか貴兄の方からその話題を振ってくるなんて思ってもいなかった。
油断していた所を一突きされ、焦りが生じる。
……ここで狼狽えてはいけない。
普段通りにしなければ貴兄に感付かれてしまう。
冷静にならなければ。
冷静に。
「んーいいよ~。あとちょっとで終わるしね」
普段通りに笑いかけ、顔を隠す様にお味噌汁を飲む。
貴兄はそんなあたしに「本当にごめんな」と申し訳なさそうに謝ると、コップを手に取りお茶を飲み干した。
少しの間疑われない様に貴兄の様子を窺ってみたけど、特に変化はなく至って普段通りで。
あたしの事を疑いもしなければ不審な言動や表情をする事もなかった。
まぁ、それが当然と言えば当然なんだけど。
だってあの貴兄だよ?
相手に気付かれる様なヘマなんて絶対しないだろう。