sinner
乱暴な動作で玄関の鍵を開けて、ようやく少し冷静になる。
……わたしが、こんなふうになってしまう資格があるのか……。
責めるべき相手がいったい誰だかわからなくなり、苛立をぶつけるよう床に脱ぎ捨ててしまったパンプスを、結局はいつものように揃えた。
「……」
短い廊下を抜けた先には、朝慌てて出掛けたままの部屋の様子があった。テーブルには二人分のコーヒーカップ。隣の寝室には、脱いで軽く畳んだパジャマ。
「……」
『どうしたの? 』
ついさっきの彼の優しい声が蘇り、今朝わたしにかけられた声と比較した。
空気を入れ換えるため開けたベランダに通じる窓は軽快な音を立てて滑っていく。先週末、独りで掃除をしたのだ。あのときも外出していた彼は、今日みたいに誰かに走っていってたのだろうか。綺麗なサッシがなんだか滑稽で。
「……煙草、でも」
動かなくても、幸いだか何故だかなのか、鞄は肩にかけたままで。目的のものはそこに入っている。
火を灯し口にした煙草はほのかに赤くなり、離した口元からは煙が上がる。
でも、今日は二度目を口にできなかった。
すぐさま吸い殻を携帯灰皿にしまいこむ。部屋に戻ればそこに灰皿はあったのに、足を踏み入れるのをはばかられた。
「コンコン。忘れ物ですよお嬢さん」
「っ!?」
優しい声は、ベランダの仕切りの向こう側からのものだった。