sinner

 
涙でべたべたになったわたしの頬に、ふと温もりが触れた。


「っ!?」


「もうちょっと、こっちおいで」


仕切りの向こう側、お隣のお兄さんが伸ばした手に、わたしはすうっと引き寄せられる。


いけないことだと理解はしている。誰かに縋りたくなったとしても、それは理性で隠さなければいけないとなのに。


隠せなくなるまで、自分がそんなふうになってしまうなんて思いもしなかった。そんなの、どこか別の世界の中だけのことだと思ってた。


避難用の薄い仕切り越しに撫でられる頬。あかぎれでごわごわした指先に触れられるのは気持ち良かった。


「泣き止んでくれないと、もっとこっちに引き寄せたくなるよ。つけこんで、いいの?」


「……」


それを、想像してしまう。
わたしを見つめる瞳は、誘惑を連想させる全ての形容詞を含んでいた。


「玄関からでもここからでも。――大丈夫。ぼくが無理矢理連れ出すんだ。罪悪感を覚える必要はない」


……、でもそれじゃあ、駄目だ。


軟派に見えるだけだと、わたしは気づいてる。


だから、


「駄目です」


わたしは、


「っ!? ちょっと!!」


正拳突きでベランダの仕切り板を破壊した。


「全部そっちの責任で縋るなんてまっぴら」


わたしから、花で埋もれるベランダに飛び込んだ。


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