sinner
ぼくの問いかけに、少し唇を開いたまま硬直する彼女。外灯の光を受け綺麗に輝いていたその黒目が、途端に光を失くしたように感じた。
虚ろにも見える瞳が幾度か揺れたあと、彼女からは強がりさえ出てこなくなった。
動揺したぼくは、ろくでもない取り繕いしか出来ずに、望んでもないことを言ってしまう。
「それとも、この機会にって、名字が一緒になったりするとか」
返ってきた否定に心底安堵したぼくはなんて身勝手だろうか。
男の不貞を気付いているかもしれない動揺。そうでなくとも、やはり、三年前と同じ気持ちが失せてしまったことを悲しんでいる。そんな彼女に、安堵する。
「っ、何言ってるんですか~っ。そんなことないないっ」
ここでぼくはタイミング悪く、彼女への恋心はやはり絶対的なものだと確信を持ってしまった。
「そんな未来を見据えながらの同居ならまだしも……」
だから、彼女はまだあの男を想っているようなことを言うものだから、幸せになってほしい気持ちを、僅かに、幸せにしてあげたいという傲慢が上回った。
………………、
……アパートまでの帰路、一番長かった直線の道をようやく右に曲がる。
「……、」
「どうかしましたか?」
「……いや。何も」
角を曲がる際に、ぼくたちが今まで歩いてきた直線の道に差し掛かるあの男が視界に入った。その軽やかな足取りに苛ついたけれど、実際のぼくは、その口角も少なからず上がっていたかもしれない。
それは、神のみぞ知る。