sinner
「大丈夫。――不安なことなんて、どうしてもあるものだよ」
ぼくのしたたかな慰めとぼくが抱える恋愛感情に、注意をしながらも成就を願ってくれる彼女は、当然だけど鈍感で。
純粋で、真っ直ぐだ。
そうやって、彼女の華奢だけどしなやかで真っ直ぐに伸びた背筋は形成されてきたんだろう。
「したたかになれるくらい好きなら、頑張ってくださいと言いたくなります。――でも、あまり相手が傷つかない程度にですよ」
「うーん。それは保証できないかな」
「悪い男ですね」
「そうかもしれない、ね……」
微笑みながら、親切心という嘘で武装し、彼女に男のもうすぐの帰宅を告げた。
「彼氏、帰ってきたみたいだ」
アパートまでの帰路、一番長い直線の道を終えた男の姿を見留め、向こうがこちらを視認する前に彼女の手を引き、ぼくたちが住むアパートの塀の陰に隠れた。
初めて触れた彼女の、これまたすぐにでも折れてしまいそうな指に、秘かに心が昂る。
上昇する体温に、どうか気付かれませんよう……。
「マンネリには刺激も必要だよ。驚かせたらいい」
……そりゃあ……叶うものなら、彼女を手に入れたい。ぼくだけが愛でて愛でて可愛がって優しくして、大切に、泣かせないように、したかった。
けど、こんな展開を望んでいたわけでもないことを、信じてほしい。
彼女の可愛い不意打ちに対するあの男の態度を見て、その中に、彼女を想う気持ちがあって、彼女が男と本当に幸せになれる道もあるのなら、と、諦めたり、事態の好転も、ちゃんと、考えていたんだ。それならば仕方がないと。