sinner
それは、なんという残酷なタイミングだったろうか……。
男は彼女の可愛い不意打ちに出会う直前、ぼくと彼女が隠れていた至近距離、塀の向こうで、駅へと戻っていってしまった。その足取りは、ついさっきまでの軽やかを通り越して、もう羽が生えたように飛んでいく。
あの、綿菓子女のところまで。
彼女の可愛い不意打ちに出会う直前、男は、自身の携帯電話の呼び出しに気付き、応えた。馬鹿な会話のそれから、通話の相手や……ついさっきまでの、彼女以外とのベッドでのことなど全てが、まるで会話の傍受でもしているように、彼女とぼくのところまで伝わってきて……。
「ただのお隣さんに、とてつもなく変な場面をお見せしてしまって、すみません」
男が駅へと引き返してから、気丈な言葉で彼女は走り去っていってしまった。
同棲が、いつからか同居、もっと希薄な関係となってしまった、二人で住むアパートの一室へ。
気丈な言葉とは裏腹に、ぼくの足下には動揺の証、沢山のデパートの紙袋が全て置き忘れてあった。
右の腕に掛けられていた衣料品の類い、左の腕に掛けられていた食料品と思われるものたち。その中には――
「……」
――やはり何かのお祝いだったのか、ワインやオードブル、大きなケーキが入っていた。あとでわかったことだけど、今日は彼女の誕生日だったらしい。
別に祝ってもらいたかったわけじゃないとか、他にも色々。残された荷物をベランダ越しに渡す際に言い訳し、気丈であれと肩を震わせる彼女に触れ、ぼくは彼女を誘惑した。
傷みはしたし、反省も後悔もした。謝った。
けど、止めることは出来なかった。