sinner
大義名分を掲げて彼女を抱く間、何色もある感情はやっぱり、幾重にも重なり乱れた。けど、常にあったのは、彼女の表情が、これ以上悲しみで歪まないようにとすること。どんな欲にまみれても、それだけは消えなかった。
……彼女を乱しながら、よく言えた台詞だな。
好きだと、一度だけ告げたときにあったのは怯え。あからさまに怯んだ彼女の華奢な肩に柔く噛みついて、その止まった呼吸を再開させる。
もう、好きだと紡ぐことは出来なかった。
この部屋のベッドは彼女の部屋側に隣接はしていない。けれど、彼女は嬌声を上げるのを躊躇う。ぼくはそれがあの男への操に思えて仕方がなくなり、恥じらう肌の全てに口づけ我慢出来なくさせた。キスの許しを得てから、彼女の唇に自分のを重ねる。
もう、ぼくの知らない彼女なんて、あとは臓器とか中身も中身だけとなった。
今夜のは、こういった行為をするには少し物足りなく感じる、けれど、彼女がその肌を見せるのを恥じらうくらいにはお互いを認識できた月明かりだった。そんな夜に組み敷く彼女は本当に綺麗で、壊れてしまわないように抱きしめるのに必死だった。
シャワーを浴びていないからと、時折ぼくの手や唇を遮る彼女を嫌悪されない程度に無視して、頭のてっぺんから爪先までキスを繰り返す。次第に力なくなる身体や、預けてくれた重みに感動した。
途端に目が潤む。気づかれないよう拭ったそれはしょっぱくて、ああ、ぼくはまだ人間の涙を流せるんだと安堵した。
玄関の外側から物音がした。集合住宅だから、何処かの家の住人のご帰宅があるのは当然のことだけれど、件のそれはぼくの家の隣、すなわち彼女が住む家への音だった。あれからどれだけ時間が経ったのかは知らないけど、もう、彼女がその物音に気づき声を控える余裕はなくしていた。
ただただ、ぼくだけに反応することしか出来なくなった彼女に、ぼくは密かに歓喜する。