sinner

 
――――
――



それは、彼女が何処かへ引っ越してしまう当日、ベランダ越しの会話。
数週間ぶりのことだった。


「あなたは、きっと誠実で、きっとわたしは幸せでいられて大切にしてもらえる。――でも」


吹っ切れたような頬の艶。少し見上げた先の空は快晴で、それがなんだかとても悔しかった。


「……うん」


「でもこのまま進んだら、また寂しさだけからか、ちゃんと自分でそうしたいと思って始めたのか、わからなくなりそう……」


「うん。だから?」


「――、さようなら」


あの、彼女を抱いた夜以来、初めての会話だった。






あの夜、最後にするとした名残惜しい行為のあと、眠ったふりを続けてぼくを遠ざけようとする彼女に、シーツをかけて境界を作った。それでも、どうしてもぎこちなく、閉じた瞼の裏で果てしなく動く眼球に気づき、狸寝入りさせてしまうのもかわいそうになった。


そっと、ぼくは、ベッドから降りた。


床に散らばった服に袖を通してから静かに振り向く。そこには、眠るふりをする彼女の細い肩が月明かりにふわりと照らされていた。柔く噛んだ痕はもう残っていない。


飲み物でも買ってくると部屋を出た。そうして、ぼくはひとり、外へとあてもなく歩く。ぼくの帰りを待っていてほしと願いながらも、彼女が、帰りやすいように。


……いいや。それだけじゃないよな。


逃げ出したんだ。ぼくは。







気づけば、日付はとうに変わっていた。


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