sinner
乾くまで休んでいってもらうよう言ってはみたけど、途中で相手がぼくだと認識してしまった彼女からは動揺ばかりで。じたばた逃げようとする。
動揺なんて、そんなのぼくだって同じだ。けど、帰らないでほしい。離したくない。
「……わざと、水かけましたか?」
頑として自分を帰そうとしてくれないぼくに、やがて諦めてくれたのか、落ち着いたのか。彼女からの問いに対して、ぼくは思わせぶりな笑みをたたえる。
普通に、なんて聞いて呆れる。舌の根乾かぬうちに、あの日と同じ、彼女と離れたくない気持ちが膨れ上がって。
「――ぼくは誰かいてももう怯まない」
ぼくのせいだから。全部ぼくのせいにしていいから。絡めとられたと思ってほしい。
逃げ出さないでいてくれるならどんな理由でもいいから。お願いです。
どうか、今まだひとりなら、ぼくが少しでも心の中に残っていてくれたなら。
どうか、どうか――。
精一杯以上の虚勢を張る。静まれよ心臓。
「ここでずっと働いてたよ。気づかなかった君がいけない」
けど、伝える気持ちは濁りのない。
全て真実だ。
椅子に座らせた彼女を見上げる形でしゃがみこみ片膝を床についてみれば、それは絵本で見たようなプロポーズのようで、とても恥ずかしい。
ここにずっといたぼくに気付かなかった彼女に少しだけの皮肉と、やっぱり忘れることの出来なかった思いの丈を伝える。
どうか。どうかと願いながら。