sinner
「……だって」
明るい照明の下で覗いた彼女の黒目は潤みながら、やがて、その声は震えて絞り出される。
「うん」
口元をその華奢な手で覆い、さっきよりくぐもってしまった声が愛しい。続きを言い淀む彼女はけれど、その手が口元に行く前、確かにぼくへ向かおうとしたんだ。
なんで触れてくれない?
その葛藤を告げてもらえれば、それは、叫びたくなるような歓喜のものだった。
「失くすのが怖くて、どうしたらいいか……」
そんなことを想像して怯えるくらいの存在には、ぼくはなれていたのだと知る。
「――うん。そっか」
情けなくも、隠せないぼくの震えに気付いた彼女が、まるで労ってくれるかのように、ぼくたけをしっかりと見つめてくれる。
泣いてしまいそうだ。幸せだ。
嬉しい。幸せだ。死なないし死にたくないけど、命を対価にしたくらいの幸福が目の前にある。
跪いていた片膝を両膝に変えると、彼女の顔に距離が近くなる。まだ明確な答えはもらっていない。なのに、今を拒まれないことに酔い、その頬に触れたくなった。
あの日の彼女の感触を思い出してたまらなくなった。あの日、肌をなぞるぼくの指のかさつきに気付いた彼女に謝ると、一生懸命の証だと、そのかさついた指にキスをくれた。
「……っ」
ぼくの滑らかでない手でこんな綺麗な肌をもう傷つけるようなことがあってはいけないと我に返る。……馬鹿だぼくは。どこにだって、触れるのは、いけないだろうが。
カッコつけてばかりな、こんな馬鹿で情けなくい男だけど、どうかと願いながら、今度会えたらと言った勝手な約束を、ぼくはやっと彼女に伝えた。
「ずっと、――ずっと、好きだったんです」