sinner
――……
時刻は十八時。閉店近くの店内は、いつもなら来客は滅多になく、締め作業の準備をしながらな時間帯のはずだ。
なんだけど……
「……」
「そのレストラン、すっごく人気で美味しくて、予約大変だったのよ? このあとが楽しみねっ」
ちなみに、ぼくは行くとは言っていない。
了承の旨が返ってくるとしか頭にない誘いを仕掛けてくるのは、最近通って下さるようになった女性客で。花を買いに来てくれるのはいいけど、ぼくを誘うついでの購入だから、正直、その花たちが大切にしてもらえているのかが非常に心配だ。
毎度断っているのに、それは駆け引きの類いだと認識されてしまっているようで辛い。そこそこ慣れているはずの上手なあしらいかたも、今回は通じなくて困っている。
女性客は自分に自信のある容姿だけあって美人だとは思うけど、それはただの感想だ。きっと今まで断られたことはないんだろうからのこの事態だと思えた。
今日も断り続けているのに、人気店を予約したからと……きっとぼくがイエスと頷くまで続く永遠のやりとりな気がして溜め息が大きく漏れる。それさえも、ぼくが遠慮し躊躇っているふうにしか受け取ってもらえないなんて最悪だ。
ぼくは作業台で、大きなアレンジを作っている最中で。本当に心底邪魔ではあるんだけど、こういうとき、働く側は弱い。厄介な客にどのレベルで退店を促すかは、判断が慎重になる。
作業の邪魔なんだけど……。
店の奥では従業員の子が、こちらの様子を窺いながら床を掃いている。顔が怯えているのは、ついさっき口を滑らせ、今作っているアレンジは店長のプライベート用だと失言してしまい、ぼくから睨まれてしまったからだ。
そうして、何故そうなるのか、女性客は、ぼくが作るアレンジを自分へのプレゼントだと思い込んでしまい、強引さに磨きがかかってしまったという状況だった。