この感情を僕たちはまだ愛とは知らない
「教えてよ」
この犬みたいな目にさからえないんだよね私
「高校の時からつきあってたの」
「幼なじみ?」
「んん同級生」
「ゆきとはしたの?」
「なんで?」
「うらやましいだけ」
律は素直なんだよね
自分の感情をポンポン表にだして
「律」
「なに?」
「なんでもない
私、明日も仕事だから帰るね」
「瑞希はさ底無しに優しかった
だから俺の身代わりを引き受けてくれたんだ」
「身代わり」
「おまえさそろそろ言ったら?
俺が必要だ好きだって」
言ったらなんか負けた気がして私は首を振った
「言わない」
「強情だねぇ
なあ食いたいもんがあんだけど」
そういえば律は大食いだったよね
「なに?」
「おまえの手作り弁当」
ハードル高いってムリに決まってんじゃん
「ムリ」
「食えればいいんだよ」
「ムリったらムリ」
「ガキみたい」
「えっ···」
また笑った
律の笑顔なんか好き
「こいつだけじゃ腹減る」
律の腕には点滴が刺さったまま
「わかったから今は我慢して」
「素直なほうが可愛いんだけどな」
律が小さく呟いたせいで聞き取れなかった
「なに?」
「別に
弁当の中身なんだけど」
「お肉でしょどーせ」
「まだなんも言ってねぇけど
玉子焼きと煮物と唐揚げ後はオニギリ」
「はい?」
「ずっと昔···大切な人が作ってくれた気がする食いたいんだ」
律の言う大切な人それは母親なのかもしれない
「お母さんの味?
ムリそんなの」
律がしゅんとした表情をするので私は渋々うなずいた
「最後に施設に入る前、渡してくれたんだ」
「律はいつから施設にいたの?」
「さあ」
「···」
私は律を抱きしめて泣いていた
骨ばった細い体それに引き締まった筋肉
「なんだよ急に」
「律、つらかったよね」
「今はおまえがいる」
律のためにもお弁当を頑張ろうと意気込んで病院を出た
向かった先は駅前の本屋さん
煮物なんて作ったことないし
「やっほズル休みちゃん」
「美沙」
「なんでお弁当の本?」
「たまにはいいかなぁって」
「わんこ君と進展があった?」
「えっ?ないよぜんぜん」
「ふーん
麻衣あのね言いにくいんだけど会社リストラになるかもよ?」
私は本を取り落としそうになった
今まで頑張ってきたのに
ぜんぶぜんぶ崩れていく
私は本屋さんを出て美沙と別れて会社に電話をかけた
「入江田」
「菅さん」
「リストラだってなあ、おめでとう」
「今から来てください話しがあります」
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