この感情を僕たちはまだ愛とは知らない
05天秤にかける
菅さんはきっと優越感に浸ってるだけど私は負けたくない
時刻は18時、駅前のロータリーで待っていると黒のセルシオがすべりこんできた
「お待たせ」
私はそっとドアを開け助手席に座ってシートベルトをしめた
「この間はすみませんでした
お口にあうかどうかはわかりませんが」
私は事前に買っていた菓子折を後部座席に置いた
「そんなもので許されるとでも?」
確かに包帯を巻いた腕はまだ痛そうだ
「社内でならおつきあいします」
「ずいぶん必至みたいだけどそんなに会社が大事?」
30代なんてなかなか再就職が難しい年だ
私は頷いた
「はい」
「いいよ、入江田が僕とつきあうなら考えてもいい
でも1つ君は社内では僕の秘書だ、いいね?」
「はい」
「アフターサービスも週に一度するんだよ?」
「アフターサービス?」
「飲みに行ったりそれ以上もね」
私はつくづく狡い人と思いながらも了承した
菅さんは鼻歌交じりでハンドルを軽快にきる
着いたのはやっぱりため息がでそうなくらいの高級ホテル
普通のホテルだから車はいっぱいだし夜のバイキング形式のご飯だって期待できる
こんなとこに泊まるなら律とが良かったなとため息をついていると菅さんが駐車場から歩いてきた
「最上階だ行こうか」
「はい」
ホテルの人たちが皆、菅さんに頭をさげていく
私は部屋に着くなりシャワーを浴びた
シャワーから戻るといきなりキスをされてベッドに押し倒された
「拒否権なんかないんだからな」
わかってる
私は心の中で絶望しながらただその行為が終わるのを待っていた
ただ痛いだけ心も体も
「入江田」
「はい」
「食事に行こう」
私はシャワーを浴びなおして菅さんと食事に向かった
せっかくのおいしい料理もほとんど喉を通らず部屋に戻れば菅さんに抱かれ続けて一夜が開けた
体が痛いままスマホを見ると律からの数えきれない着信
幸いなことに菅さんはまだ寝ている
「律」
「おはよ、心配したけど」
「ごめん仕事が急にはいっちゃって」
「ふーん」
「お弁当」
「いらないつーか悪かったなムリ言わせて
男といるんだろ?
非常識だからきれよ電話」
「違う」
「なら体に痣つけてんじゃねぇよ」
なんで律にはわかるの···
「だって」
「言い訳なんかききたくない」
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