この感情を僕たちはまだ愛とは知らない
「さあ?」
「私、誰かに手をひかれて一度だけ白い家に行ったの」
「ホワイトハウス?
アメリカの」
「違う、ちゃんと聞いて」
「ムリに言うなよ」
律は優しく私を引き寄せた
そのせいで律の胸に顔を埋める形になる
律の心臓の音が直に聞こえてくる
「···ねぇ律
お姉ちゃん遊ぼ?って言ったの覚えてる?」
「···ああ」
俺は半ば諦めていた
「律、辛かったねずっと
私が助けてあげられたらよかったのに」
その律といつも一緒にいたのが瑞希という男の子
律より少し怖がりで律の後ろに隠れていた
私は律の心臓の音を聞きながら懐かしさに浸っていた
「瑞希のだよ」
「えっ?」
はぐらかしてた律が諦めたように笑ってさらけだす
「心臓」
「···」
「俺の心臓は誰かに売られた
借り物の命であとどれくらい生きれるかなんてわかんない
けど俺は後悔なんかしたくない
だからおまえのせいなんて言いたくないし言うつもりもない
瑞希だってそんなん望んじゃない」
また泣かせたな俺
本当に最低だ
「律ごめんね」
「謝るなら俺とつきあえ」
「それでいいの?」
「それとも刑務所で罪を償うか?」
「うっ···」
「だろ
幸せにできるかなんてわかんねぇけど寂しい想いはさせねぇから
だから飽きたら捨ててもかまわないけど拾った以上は責任もてよ?」
ムリぜったいムリ
こんなかっこいい人と同じ部屋で暮らすなんて心臓がいくつあってもたりないんですけど
「拾ったって」
「まあ犬だと思えば?」
「いや人間だし」
「おまえメリットたくさんだぞ?
掃除に洗濯に食事つきこれでもまだ足りないか?
そもそもおまえが生活能力皆無なおかげで床の雑巾がけまでさせられてるんだけどな」
そういえばたま~に床がピカピカな時がある
「うっ···
わかったわよ飼えばいいんでしょ飼えば」
もうこうなったらやけよやけ
律は世渡り上手なのかもしれないと改めて思う
「じゃあ改めてよろしく麻衣さん」
「うっ···麻衣でいいから」
「麻衣さん」
「もう律ってば」
「だってしかたないでしょ麻衣さんのほうが年上なんだから
ねっ?」
「普通に麻衣でいいから」
「んで表札どうしよっか?
倉橋麻衣になる?」
「いやムリそんなの絶対ムリ
律が許しても世間一般論が許さないしそもそも世間の人から一生後ろ指さされちゃうから」
「んじゃあ俺がなるよ
入江田律に
それならいいでしょ麻衣さん」
「いやあそれも問題よ
だって婿養子でしょ?」
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