あなたはわるい人ですか?
柏原の疑問はもっともだった。なぜ自分で疑問に思わなかったのか不思議なくらい。あのときは寝ぼけていたから「同じ電車に乗るなんてすごい偶然」くらいにしか思わなかった。住んでいる場所の話をしたのはこの土曜日が初めてのはずだ。久瀬さんは知っていた。私が話す前から、私の最寄り駅を。
帰宅して、何気なくつけたニュースではまだ連続婦女暴行事件が取り上げられていた。ピックハンマーを凶器として使う犯人はまだ捕まっていないらしい。
そういえば、と。久瀬さんがホームセンターで買っていたのは、ハンマーによく似たものだったことを思い出す。あれをピックハンマーというのだろうか。馬鹿げてる。それとこれとは、何の関係もない。
サスペンス小説の筆は進む。正確には、キーボードが。どんどん進む。どうして彼は、人がまばらな映画館で私の隣に一人で座っていたんだろう。なぜ彼は、私の降りる駅がわかったんだろう。あのピックハンマーは、一体何に使われるんだろう。何もわからない。
物語は勢いよく進む。佳境に入る。物語が面白くなるほどに、なんだかとても悲しくて痛かった。
次に久瀬さんと会う約束をしたのは、金曜日の夜。待ち合わせの時間、最寄り駅で待っていてくれた彼は、こちらに気付いて手を振ってくれる。