あなたはわるい人ですか?
「今日は寒いね」



自分がしていたマフラーを、惜しげもなく私にかけてくれる。こんな人に裏があるはずない。夕食は彼がレストランを予約してくれていた。そこでいろんなことを話す。先週ショッピングモールで買った食器のこと。今週会社であった嫌なこと。小説のことには触れない。ピックハンマーのことにも。婦女暴行事件のニュースにも、触れない。



「へぇ、そうなんだ」



何を話しても笑って返事をしてくれる。私たちはうまくいっているはずだ。何も間違っていない。だけど気付いてしまった。

目が笑っていない。
 
予感が加速する。




もしかしたら久瀬さんは、

もしかしたら。





ものすごく、悪い人なのかもしれない。








「この後どうする?」



食事が終盤に差し掛かり、グラスの中のワインも残りわずかになった頃、タイミングを見計らったように彼は訊いてきた。



「あー……、今日は、もう……」




< 16 / 24 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop