あなたはわるい人ですか?
ここで帰ってしまったら。
このまま真相を確かめず、帰ってしまったら。
「もう、お開きにしとく?」
優しく訊き返してくる目は、残念そうに見えるけど。頭の中は覗けない。
私の勝手なフィクションか、はたまたノンフィクションか。はっきりさせずに付き合っていくことはできるだろう。傷つかず、だけど安心しない。
そんな日々は果たして幸せだろうか?
答えは決まっていた。
「……久瀬さん」
「うん?」
「私の部屋にきませんか」
「……え、いいの?」
私は、幸せになりたい。
家に向かうまでの道は二人とも言葉が少なくて、ぼんやりと考え事をしていた。小説はもう脱稿寸前。こんなに筆が早いのは初めてかもしれない。百ページ近いそれは残り数ページで結末を迎える。結末に至るまでの、すべての久瀬さんの不可解な行動が、彼を黒だと指し示している。
だけどまだ何も決まっていない。決定的なことは何も書いていない。彼は本当の自分に関して、まだ何も語っていないし、私はまだ何も訊いていない。