あなたはわるい人ですか?
事実は小説より奇とは限らない。種を明かせばなんてことないことが事実で、一瞬だけ身近に感じた残酷な世界は、やっぱり別世界のことだった。恐ろしい真相なんて存在しない。絶望するどころか、少し胸が熱くなったくらい。
これじゃほんとに。最初からほんとに。
「久瀬さんて……」
「うん?」
「ほんとにただの良い人だったんですね……」
「なにそれ。褒めてると思っていいの?」
この人の笑顔には本当に害がない。「目が笑っていない」なんて、人は、人のことを見たいように見るんだなと今回のことでわかった。彼は、口に遅れて目が笑うのだ。
胸に頬をすり寄せると体ごと抱き寄せてくれた。私たちはまだ、お互いのことをほとんど知らない。
「黙ってたことがあるんですけど」
「お?」