王子な秘書とシンデレラな御曹司
遠くから聞こえるガタガタとした音
それはこのフロアに似合わない
とっても貧乏ったらしい音で、私の不安を増長させる。
「あれじゃない?まぁ頑張って」
理香はフフフと笑い
バカにしたように私の肩を指先で軽く叩いて、スキップで戻って行く。
私は音の鳴る方をジッと見ていると
それは大きな台車がこちらに向かってくる音で、白衣を着た人物が一生懸命に台車を押し、私の姿を見て喜んでいた。
どこかの業者さん?
物品の移動?なんで白衣?
近寄るガタガタ音が
恐怖を呼ぶホラー映画のようだ。
「竹下さん?」
黒縁メガネでボサボサ頭
白衣を着た男性が私の名を呼び
目の前が暗くなる。
「初めまして。岸本啓司(きしもと けいじ)と言います。常務からお話聞きました。よろしくお願いします」
男は私に笑顔で挨拶をし
頭を下げた瞬間に台車から書類がバサバサ落ちて「あ、ああーっつ」って声を上げて必死に拾う。
御曹司は二人いたのか?
書類と一緒に
私も崩れたい。