王子な秘書とシンデレラな御曹司

そこは
重役室の扉とは思えないくらい軽い普通のドア。

でしょうね
だってプラスチックのプレートに【資料室】って書いてあるもん。

「ご自由に使って下さい」

電気を点けると
10畳くらいの普通の事務室。
安っぽいスチールの机が二つと同じく事務椅子が二つ。
書類を入れるスチールのラックが二つ
バーカウンターがひとつ。
パソコンとプリンターがひとつずつ。

さっき間違えって入った
俺様御曹司の部屋と真逆。

呆然として立っていると
ガタガタガタガタ
聞きたくない台車の音が聞こえ

「うわぁ広いですね」

嫌味ではなく
心から嬉しそうな声が背中から聞こえた。
案内をしてくれた女性はクスリと笑って静かに去る。

「すごい。バーカウンターまである。ここにエスプレッソメーカー置いていいですか?」

いいよいいよ
何でも置いてくれ。

「イスもテーブルもあるんですね」

パイプ椅子だけどね!
どこまでもバカにされた部屋だ。
泣くに泣けない。

私は部屋に入り
窓に下がっていたブラインドを開く。

解放された空はみんなの物
誰の物でもない
飛行機雲がスーッとまだ流れているかもしれない。

って
思っていたら

窓の外は
隣のビルが密着していて


景色がなかった。


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