王子な秘書とシンデレラな御曹司

「大丈夫だよ。もう大丈夫」
何度も何度もそう言いながら
私を抱いて廊下を突っ走りエレベーターの前でイラつきながらボタンを押す副社長。

グッタリしながら私は彼に身を任せる。

「雅さん。しっかりして」
彼はそっと顔を寄せ、愛しそうに自分の唇を私の頬に重ねる。

「すぐ近くに病院があるから大丈夫。もう泣かないで」
自分に言い聞かせるように副社長は言い
開いたエレベーターに飛び込んだ。

狭い密室にふたりきり
こんな時なのに
彼に抱かれて心配してくれている事実に心が温まる。

「ほら、すぐだからね」
エレベーターが停まり
猛ダッシュで副社長は飛び出してホテルの入口にあるタクシーに乗り込んだ。

ありがとう啓司さん。
でも
もうこれ以上
甘えてはいけないよ。

「副社長……もういい」

「え?」

「大切なスピーチが控えてます。早く戻って下さい。ご迷惑かけてすいません」
お腹を押さえながらタクシーの中でそう言うと

「冗談じゃない」って怒って私の隣に滑り込む。

「運転手さん。近くの病院まで急いで。急病人なんだガンガン飛ばして」

「副社長、戻って下さい。婚約発表もあるし」

「そんなもの。僕がいなくても誰か代わりに言うでしょう」

「ダメですよ」

「今、僕の代わりはいません。僕が雅さんに付いてなきゃ。運転手さん早く!」

副社長の怒鳴り声に運転手さんは驚き、慌ててアクセルを踏んで急発進。

「ずっと傍にいますよ」
彼はそう言い
私の肩を静かに抱きしめた。

お腹が痛いのか心が苦しいのか
涙が止まらない。

< 164 / 245 >

この作品をシェア

pagetop