王子な秘書とシンデレラな御曹司
「行きましょう」
そう言われ
私は頭を空っぽにして首を横に振る。
絶対……間に合わない。
目から涙がひとつこぼれる。
私のミスだ。
私がやらかした。
こんな大切な仕事をダメにしてしまった。
次から次へと涙がこぼれる。
「ほら、行きますよ」
強い力で背中から捕獲され
副社長は私を立たせようとするけれど
力が一切入らない。
もうダメだ。
「間に合いません。下手に遅刻すると印象が悪くなります」
「大丈夫です」
「交通規制もかかってるんです。もう間に合いません」
「やってみないとわかりませんよ」
「もうダメなんです。私の責任です。私は……」
「雅さん」
その時
初めて副社長は『竹下さん』ではなく
『雅さん』って私の名前を呼んだ。
「はい」
泣き顔が恥ずかしくてうつむいてると
「顔を上げて」って優しく言われたので顔を上げる。
「子供みたいですね。ほら、もう大丈夫」
柑橘系の香りがするハンカチが
そっと私の涙を払う。
「寒いから覚悟して」
副社長は笑って私の手を引き
走りながらエレベーターに乗り込んだ。
「☓〇ホテルですよね」
「はい。そうです」
「了解です」
不思議そうな顔をする私の手をずっとつかんだまま、エレベーターは一階に到着し副社長は裏口へ回る。
「あの……お車は」
「こっちです」
文字盤の大きなパルライの腕時計をチラ見して、副社長は会社の駐車場に案内し
「急いで」と、自分の愛車に私を乗せようとする。
副社長の愛車
それは
年期の入った……ママチャリだった。