王子な秘書とシンデレラな御曹司

「岸本啓司と竹下 雅か?」

華子様はどこで調べたのか私達の名前を呼び
私達は「はい」「そうです」と、直立不動で返事をすると

「そうか。清香が世話になった」
そう言って部屋をグルリと見渡してから
「ここはクローゼットか?それにしては狭いな。部屋に案内しろ」
眉間にシワを寄せそう言った。

そこまで言うかお嬢様。

「部屋です。ここで仕事をしてます。よかったらコーヒーが入りましたのでどうぞ」
腰の低い副社長は奥に案内し
華子様はヒールをカツカツさせながらソファに座った。

緊張する。
みょーに緊張する私達を横にして
清香さんはニコニコ笑顔を見せ、華子様の隣にちょこんと座る。
動揺しながら副社長を見ると
お客さん用の紙コップにコーヒーを入れて、いそいそとお嬢様と清香さんに差し出した。

お客様用にカップを買っておくべきだった。
いつも集まるのは社内のコーヒー好きな人間だから、私が大量に買ったダイソーカップしかなかった。失敗。

無言でダイソー紙コップに口をつけ
コーヒーを飲むお客様なふたり。
華子様の迫力で空気が重い。
何か……何か会話を続けなくては……。

「あっ……あの……今日は馬じゃないのですね?」

スベったな私。
ヤバっと思っていると華子様は

「ここは馬でもいいのか?」
真剣な顔で私に問いかけた。

墓穴堀った質問ですいません。

誰も何も会話をしない。
無表情の華子様
ニコニコ笑顔の清香さん

私は副社長の横で小さく肘で突っついた。

「何ですか?」

「何か会話して下さい」

「会話って言っても……何を話していいのか……」

「この沈黙が重くて押しつぶされそうなんです私」

私の切羽詰まった顔に負けたのか
副社長は苦い顔で動き出し、自分の椅子を持って来て華子様の近くに寄り

「名古屋城、見ます?」
自分のスマホを取り出し
指で画像を探していた。

おい。
それは違うんじゃない?





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