王子な秘書とシンデレラな御曹司
変な緊張と共に
私が副社長の元へ戻ると
副社長は書類から顔を上げて「コピーお願いします」と、何事もなく仕事の指示をする。
ごくごく普通に仕事をする。
いつも通りで
健の話は一切しない。
いつもの午後なのだけど
どことなく
何かが違う。
いつも仕事の最中
現実逃避をする為に
私に話しかけて怒られる副社長。
くだらなくも軽い話。
意味のない話。
マニアックでよくわからない話が……ない。
優しい笑顔を見せながら
私にコーヒーを差し出したりする仕草が……ない。
いじわるされてるワケでもなく
ごくごく普通に仕事しているんだけど
目に見えない細い線を、私と副社長の間に引かれたような
こんなに近いのに
遠く感じてしまうのはどうしてだろう。
副社長は黙々と仕事に打ち込み
すごい勢いと力で朱肉に印鑑を叩きつけて、書類に音をたてながらバンバン押しまくる。
鬼気迫る表情に引きながら自分の仕事をしていると
「明日……デートですから」
ボソリと副社長が言う。
「はい?」
「麻生華子様に連絡をとりました。明日の夜はデートです。ウィーンから管弦楽団が来日していてチケットを抑えました。5時以降は予定を入れないで下さい」
朱肉がにじむ書類の角を揃えながら、業務連絡のように副社長は淡々と私に告げる。
「急展開ですね」
まさか副社長自ら行動するとは……ビックリ。