落ちてきた天使
「入院三日目、その日はパパも仕事が休みで弟を連れてお見舞いに来てくれたの。三日振りの家族団らんだった。楽しい時間の後に訪れる別れは凄く、すごく…寂しくて……」



言葉が淀む。
鼻の奥がつんっとして、吐息が震えた。



「パパと弟と一緒に……ママも、買い物に行くって……」



ママはすぐに帰ってくるからねって私の頭をぽんぽんって撫でた。


これまでもママが購買に行ったり、コインランドリーで洗濯をして屋上で干してる間など、一人で病室で待ってることなんて沢山あった。


なのに、あの日は急に皆がいなくなるのが寂しくて寂しくて仕方がなくて……



「私……ママに酷いこと、言っちゃったの」



ママ、行かないで。一緒にいてっ!
そう駄々をこねる私を、初めてママはあの言葉を言った。



『もうお姉ちゃんだから、少しの間お留守番出来るわよね』



“お姉ちゃんだから”


そうだよ……私はもう5歳。
来年には年長さんになるんだ。
数だって数えられる。平仮名だって書けるようになってきた。


弟だっている。オムツを替えたり、着替えを手伝ったりも出来る。


もう立派なお姉ちゃんだ。でも……



私は、“まだ”5歳なんだよ……?



「嫌い……ママも……パパも、弟のことも……みんな大っ嫌い、って……」



涙が頬を伝い、顎先に溜まる。
そして、後悔の念で澱んだ滴が、重さに耐えきれず皐月と繋いでいない方の手の甲にぽたりと落ちて跡を作った。




< 160 / 286 >

この作品をシェア

pagetop