落ちてきた天使
グズッと鼻を啜り、手の甲で流れる滴を荒々しく拭う。だけど、泣き過ぎたせいか、それだけでは拭いきれなくて、頬全体が涙に濡れて冷たい。



「おじいちゃんね、隣町の老人ホームにいるの」



おじいちゃんは今年で80歳になる。
もう私のことは疎か、おばあちゃんのことも、自分が誰であるかも覚えてないと聞いた。



「知ってる。会いに行かないのか……?」



このことも皐月はやっぱり知ってたか、と思いつつ、その言葉が前から私の中にあった迷いの塊に刺さる。



おじいちゃんのことはずっと気懸りだった。


でも、里親に引き取られた時に遠くに引っ越したから、小学生の私が簡単にお見舞いに行ける距離じゃないし。

正直、当時も今も自分のことでいっぱいいっぱいで、実際に会いに行こうって行動に移せなかったのも事実。


そして何よりも、怖い、という思いが最終的に私の決心を鈍らせていた。



「私が会いに行ったら……今度はおじいちゃんを失ってしまうんじゃないか……って……」



私のことは忘れててもいい。
元気でいてくれるならそれでいいから。


本当は凄く凄く、おじいちゃんに会いたい。


でも、私の運命が今度はおじいちゃんを巻き込んでしまいそうで。その恐怖が、私をおじいちゃんから遠ざけていた。





「初めて出来た友達も、私を引き取ってくれた里親も……みんな私に関わったせいで、私の周りからいなくなった」



施設に入所した後、わりとすぐに里親が見つかってこの街を出た。


小学校低学年の私でも、もうこの時には自分の周りに起こる不幸な出来事の原因は私だって思い込んでて、新しいお父さんとお母さんとも距離を置こうとしてた。


なるべく感情を見せないように、目を合わせなかった。極力部屋に籠って、話もしない。


だけど、お父さんもお母さんも、そんな私を大事にしてくれた。


少しずつ少しずつ。
私の気持ちを大事に。
私の心をほぐすように。


叱る時はちゃんと叱り、笑って、抱き締めてくれる。


行動で、言葉で。
私に愛情を精一杯注いでくれたんだ。





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