その愛の終わりに
予定していたドレスが着られなくなったことに気づいたのは、次の日の朝のことであった。
細やかな装飾が優美な姿見の前で、美都子は首筋に手をあて、小さくため息をこぼしていた。
雪のように白くきめ細やかな肌には、昨夜の情事の痕がくっきりと残っている。
これでは、首回りが剥き出しになるイヴニングドレスは着られない。
「困ったわね……」
「大丈夫ですよ、奥様」
ベッドメイクを終えた女中が、部屋の奥から宝石箱を持ってきた。
義直の産まれる前から東雲邸にいたという女中は、手慣れた様子でいくつかの宝石を物色しはじめる。
「そうですわねぇ……。こういった、大ぶりのネックレスならうまく隠れますよ。ただ、予定していたドレスには似合わないですね」
ダイヤモンドとプラチナの細工が連なった重厚感溢れるネックレスに合わせ、女中は淡い黄色のエンパイアドレスを選んだ。
「本日のお衣装はこちらにしましょう。昨今流行りのアール・デコですわ。お髪も、それ風に整えましょう」
「ええ。あなたの見立てに外れはないもの。お任せするわ」
頼りになる女中に感謝すれば、彼女は張り切った様子で靴を選びはじめた。
「それにしても、旦那様との仲がよろしいようで何よりでございます。あとは早く、お子が授かればよろしいのですが……」
女中が何を言わんとしているか、美都子は察した。
結婚して2年が経つが、いまだに美都子と義直の間には子供がいない。
常に船に乗り、欧米を転々とする義直の仕事上、夫婦として過ごす時間はごくわずかである。
子供を作ろうにも、時間がなかったのだ。
だが、それもいつまで世間の理解を得られるかわからない。
「……今回は長くいらっしゃるし、期待出来るんじゃないかしら?」
3年経っても子供が出来ない嫁を、石女として離縁する家は多い。
美都子としても、そろそろ子供が欲しいところであった。