瑠璃子
思わぬ幸運
それから暫く経ったある日のこと。
取材に忙しい上岡はいつしか少女のことも忘れかけていた。
ある日のこと、上岡に思いがけない幸運が訪れる、
買った宝くじが当たったのだ。
とは言っても何千万、何億という途方もない巨額の当選ではない。
当選した額は五百万円、ちょっとした額だった。
思わぬ臨時収入に狂喜する上岡は、さっそく当選金の使い道を考え始める。

五百万か・・・。

遊び好きの上岡は頭の中が女で一杯になり始める。

そうだ、仲間を集めていっちょう酒池肉林の大盤振舞いといくか!
よし! 御大臣遊びだ!
いや、待てよ、この際だから新車、しかも高級外車を買うのもいいな・・・。
いやいや、新しいマンションの頭金にするか・・・。

いろいろな使い道を考えていくうち、ふと、あの少女が心に浮かんでくる、
瑠璃子という名の少女、小柄で色白の、ちょっと太めのチャーミングな少女、
物静かで控えめな少女。
そもそも上岡は未成年者になんの興味も関心もなかった。
上岡にとってロリータなどただのションベン臭いガキでしかなかった。
少女の姿が目に浮かぶ上岡は急に少女のことが気になりだすと、
当選金の使い道の思案など隅へ追いやられていく、
カネの使い道よりあの少女のことが知りたくなってくる。
カネなど慌てて使う必要はない、
それよりもなぜあの少女は援助交際などしているのか?
そもそもなぜマリーはこんな話を自分に持ってきたのか?
あの大規模マンションはどこにあるのか?
あの部屋は誰の部屋なのか?
上岡は不思議でならなかった、なぜ自分がこんな体験をするのか?
次第に上岡は少女を取り巻く事の真相を知りたくなってくる。
だが、マリーは何も教えてはくれない・・・。

そうだ! マリーが話さないなら自分で調べればいい!
それに自分はライターの端くれだ。

そう考えた上岡は、あの少女、瑠璃子にもう一度会って訳を訊いてみようと思い立つと、
さっそくマリーの店Lに電話する。

  はい、Lでございます。

電話に出たのは丁重だが若い男の声、店の従業員らしい。
マリーは自分が店長になってからというもの、
店の従業員に対する接客態度を厳しく躾けている。
マリーの目標はLを高級店にしていくことだ。

  あ、すいません、店長いますか?

  店長ですか? あの、誠に恐れ入りますがどちら様でございましょう?

上岡は自分の名前を告げると、従業員は暫くお待ちをと電話を店長に繋ぐ。

  もしもしぃ。

明るいマリーの声。

  やあ、マリー。

  あら先生、いつも当店を御贔屓に、で、今日は?

  ん? うん、ちょっと予約したいんだ。

  あら、予約? ありがとうございます先生、で、今日はどのコかしら?

  え? ああ、うん・・・。

上岡は言い難そうに口ごもる。

  どうかしら先生、新しいコが入ったわよ、試してみない? とってもいいコよ。

  いや、この間の子を予約したいんだ・・・。

  この間のコ? どのコだったかしら・・・。

思案気に問うマリーに

  瑠璃子と言う女の子さ。

マリーは一瞬沈黙すると思いだしたのか、

  あ、ああ、ああ、あの子ね、ウフフフフ、やっぱり先生気に入ってくれたんだ、
  いいわよ、オーケーよ、時間は午後三時過ぎよ。

  午後三時過ぎ? すぐに会えないの?

  それは無理よ、よく考えてごらんなさいよ、あの子のことを。

上岡は瑠璃子を思い浮かべるとブレザーの制服姿が浮かんでくる。
そうか、今はまだ学校か・・・。

  ああ、わかったわかった、いいよその時間で。

  ウフフフフ、判った? 判ったらその時間あたりでこの前の場所で待ってて!

上岡は瑠璃子に予約を入れる。
上岡はまだ時間があるためデパートへ足を運ぶ。
瑠璃子に何かお土産でも買ってあげようとスイーツ売り場を物色する。
相手が少女であることからチョコレートがよかろうと考えると、
ベルギーの某有名高級チョコレート店へ立ち寄る。
瑠璃子のお土産用に購入したのはいいが、
ロゴマークの入った手提げ袋が目立ちすぎる、
こんなものを持って待ち合わせ場所に行けばマリーが詮索してくるに決まってる。
マリーに知られたくない上岡はビニール袋に変えてもらうと
それをショルダーバッグの中に入れる。
これなら絶対に判りっこない。
喫茶店で瑠璃子に質問する事項を考えながら時間を潰す、
やがて時間が近づいたため例の場所へ足を運んでいく。
待ち合わせ場所に着くと今日はやけに若い女が多い。
見ただけでは誰が彼氏待ちで誰が援助交際目当てのタチンボかは解らない。
時計を見れば午後三時。
すると例によって一台のタクシーが傍に寄るとマリーが降りてくる。

  お待ちどうさま、じゃ、これ掛けて。

マリーは例のサングラスを手渡すと笑いながら、

  ウフフフフ、あの子ね、先生のこと言っていたわよ。

上岡はサングラスを掛けながら、

  ふぅん、僕のことを? なんて言っていたの?

  あのね、とっても優しい人だって、そう言っていたわ、
  良かったわ先生を選んで!

上岡は満更でもない気分になるがマリーの言葉が気にかかる。
自分を選んだ? どういうことだろう?
上岡はマリーに問う。

  そう、僕のことをそんな風に・・・、嬉しいね、ところでマリー、
  いま僕を選んだと言ってたけど、それはどういうこと?

マリーは慌てるように、

  え、ううん、なんでもないわよ、こっちのこと、さっ、早く乗って!

マリーは上岡の手を引くとタクシーに押し込み自分も乗る。
時間にして十分足らず、タクシーを降りるとマリーは上岡の手を引きながら
例の一室へと向かっていく。 
部屋に入った上岡はサングラスを取ると、もう一度マリーに訊いてみる。

  ねえマリー、さっきのことだけどさ・・・。

  うん? 何よ。

  いや、待ち合わせ場所で、僕を選んだって言てったけど、
  どうも気になるんだ、なぜ僕を選んだのか教えて欲しい・・・。

するとマリーは笑い出し、

  アハハハハハ、そのこと? 大したことじゃないわ、
  この業界で商売やってるといろんなお客さんがくる、
  中には性質の悪い客やアブナイ客なんかもくる、
  女の子に乱暴したり嫌がることを無理強いしたり、
  そうかと思えば聞かれもしないのに女の子に自分のことを
  見たか取ったかみたいに言い触らしては自慢するどうしようもない客、
  そんな客にあの子を当てることなんてできないわよ、
  その点、先生ならいつも女の子に優しいし扱いも丁寧だし、それに口も堅い、
  だから先生を選んだのよ、判る?

  ふぅん、そういうことか・・・。

  そういうこと。

マリーは上岡からサングラスを受け取ると、

  じゃ、今から呼んでくるわね、楽しみに待っててね、ウフフフフフフ。

マリーは部屋から出ていく。
上岡にはマリーは本当のことを話していないことが判る。
これは長年のライター稼業で培った経験からも判る、取材で本当のことを言っているのか、
それともウソを言っているのか・・・。
上岡はマリーが嘘を言ってはいないことは判る、が、決して本当のことを話している訳でもない。

まぁ、いい、全てはあの瑠璃子と言う少女が話してくれるだろう。

上岡は部屋に上がるとリビングへ行く。
そしてショルダーバッグからデジカメを取り出し窓から外を撮影する。
そして玄関に行きドアを開けると周囲を撮影する、後はなんとか瑠璃子の写真を取ればいい。
そしてその写真をもとに調査会社へ依頼する。
瑠璃子がどこに住み、そしてここがどこなのかを・・・。
ソファに座り瑠璃子を待つ上岡、この待ち時間が妙に長く感じる、そして瑠璃子の裸を思い浮かべる、
するとなぜか胸が高鳴り興奮してくる、いままでこんなことはなかったことだ。
まさか中学生の少女に性的興奮を覚えるなんて・・・。
どうやらロリコンになりかけているらしい、我ながら苦笑する上岡、すると玄関のチャイムが鳴る。

来た!

瑠璃子が来たと判ると、いそいそと玄関に向かう上岡、ドアを開けると制服姿の瑠璃子が挨拶する。

  こんにちは。

瑠璃子はチラリと上岡を見るとはにかむような笑顔を見せる。
その笑顔になんとも言えない可愛らしさを感じる上岡。

  今日は、さっ、入って。

上岡は瑠璃子を玄関に入れると部屋に上げる、
相変わらず几帳面に靴を揃える瑠璃子、
見ていると上岡の靴まで揃えてくれる。
それを見た上岡は思わず笑みを浮かべると
瑠璃子をリビングへ通しソファへ座らせる。
チョコンとソファに座る瑠璃子、
チラチラと上岡を見ては気恥ずかしそうはにかむ。
無理もない、これからすべきことを考えれば恥ずかしくもなるだろう。

  ところで瑠璃子ちゃん、訊きにくいことなんだけど、その・・・、
  何人くらいとこうして交際しているの。

ソファにちょこんと座る瑠璃子は首を振りながら、

  ううん、交際のお相手は先生だけなの・・・。

瑠璃子の言葉に思わず驚く上岡、

  え? なんだって、僕だけ?

瑠璃子は頷きながら、
  
  そう決められているの。

瑠璃子の話に唖然とする上岡。

瑠璃子の相手は自分だけ? 
すると瑠璃子は自分だけのオンリー?
そんな・・・、まさか・・・。

上岡は訳が分からなくなってくる。
マリーは自分を選んだと言い、そして瑠璃子はあのときの女の子だ、
さらに自分だけが許された交際相手だという。

どうなっているんだ、これは?
どうやらこれは普通の援助交際ではないらしい。

上岡は目の前の真実を知りたくなる。

  ねえ、瑠璃子ちゃん、どうして援助交際を始めたの?

上岡の質問に驚いたのか瑠璃子は目を丸くして、

  え?

小声を出したまま沈黙する。
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