真夜中の恋人
「あの、ありがとうございました。全部払って頂いて……」
「いや。こちらこそ、話し相手になってくれて、ありがとう」
彼は、当たり前だよとでも言うように、ニコリと微笑んだ。
明るいところでよく見ると、高級そうなスーツを着ている。
チラリと見える腕時計も有名ブランドのものだった。
見知らぬ女の子に気前良くご馳走するなんて、よっぽどお金持ちなんだろう。
勿論、少しも警戒しなかったわけじゃない。
けれど、彼の雰囲気からは、そういったものを微塵も感じられなくて、わたしはすっかり気を許してしまっていた。
雑居ビルを出たところで、彼がタクシーを止めた。
「送るよ」
そう言って振り向くと、彼はわたしに手を差し伸べる。
でも、行く当てがないわたしは、その手を取ることが出来ない。
「あの、ここで……」
「遠慮せずに乗って」
「でも」
「こんな時間に、女性を一人で帰せない」
強い口調で言われると、断れなかった。